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2025.11.17

擁壁のはなし

擁壁関連のニュースが相次いで報道されています。引き金となったのは2025年9月に発生した東京都杉並区堀ノ内一丁目の擁壁崩落。死傷者が出なかったのが不幸中の幸いですが、同様のケースが疑われる擁壁は全国に点在していると言えます。

2025年10月10日 東京新聞記事より

2025年10月10日 東京新聞記事より

 

今回は家づくりを考える上で重要な土地そのものの安全性に直結する擁壁の話を紹介します。

 

・擁壁って何?

擁壁(ようへき)とは敷地周囲に設置する壁面工作物のことで、敷地内の土の重さによる圧力(土圧)を支えて崩落させないようにする土留めの役割をします。もともと高低差がある敷地を平らにして、建物などを作りやすくするために設置します。

・擁壁の種類

擁壁にはいくつか種類があります。

 

国土交通省「宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアル」より  

 

①には間地ブロック積み擁壁や型枠擁壁(CP型枠など)、大谷石積み擁壁などが該当します。④~⑦は宅地造成等規制法等の技術的基準に適合しない、いわゆる不適格擁壁と呼ばれるものですので、気になる敷地にこれら擁壁がある場合には注意が必要です。

ただ、街を歩けば至る所にこのような擁壁が容易に確認できます。例えば次の写真、2段擁壁の上に増し積み擁壁が設置されています。パッと見ただけでも危険なことがわかります。

とても危険な2段擁壁+増し積み擁壁(著者撮影)

 

・擁壁はいつ頃つくられたかを知る

擁壁の耐用年数はおおよそ50年前後。耐用年数を超過していると想定される擁壁は至る所にあります。例えば1960年代から広まった全国の至る所にあるニュータウンと呼ばれる大規模な造成開発エリア。ネットなどで検索すれば容易に開発時期が確認できますね。

 

築後40年以上経過したニュータウンの例(著者撮影)

 

小規模な宅地造成地の場合、付近の電柱番号付近を見れば電柱の設置年数がわかることがあるので、造成地のおおよその開発時期が確認できます。

・既存擁壁を利用を検討する場合

 まずはその擁壁が「安全性が確認できる擁壁」に該当するかどうかを調べます。「安全性が確認できる擁壁」とは都市計画法、宅地造成等規制法、建築基準法等の法律に基づき築造され、検査済証が取得されている擁壁で、現在も安全性が維持されていることが確認できる擁壁のことです。上記申請時の書類が残っているか、行政に許可手続きの履歴があるかを確認することで判断できることがあります。

 一方、安全性が確認できない擁壁の場合、下記のような対応が考えられます。

 

(1)既存擁壁から建築物を離す

 一般的に擁壁高さの2倍以上離すなどの対応が考えられます。

横浜市「既存擁壁の安全性」資料より

 

(2)既存擁壁が崩壊しても建物が安全といえる対策をとる

土留めを別途作る、擁壁下部から安息角(角度は土質等により異なる)より基礎や基礎くいを深くするなどして、擁壁が壊れても建物に影響が無いようにします。

 上記対応が難しい敷地状況の場合、既存擁壁を除去して現行法に適合する擁壁を新たに築造する必要があります。いずれにしても専門的な判断が必要となるため、建築士等の専門家に相談する必要があります。

 

・既存擁壁の安全チェックポイント

 専門家でなくてもある程度は確認することができます。こんな擁壁には注意が必要です。

(1)擁壁がズレている

 設計で想定している以上の土圧や水圧を長期間受けている状態です。

擁壁が大きくズレている状況(著者撮影)

(2)擁壁がはらんでいる

将来的に崩落の危険性が高いです。

(3)水抜き孔から排水されていない

水抜き孔から適切に排水されていないということは、敷地内に降った雨水等が溜まったままで擁壁に負担がかかっている可能性があります。写真のようにゴミを詰められている場合もよく見かけますね。

 

・隣接する敷地の擁壁も注意が必要

 検討している敷地だけでなく、隣接する敷地に擁壁が設置されていたり、がけに隣接する場合があります。そのような場合は建築計画に大きな影響を与えることがあるので注意しましょう。また、過去にはご自身の敷地で新築工事中に、隣地の擁壁を壊してしまった事例もあります。

実際のインタビュー動画も掲載していますので、ご興味あれば是非御覧ください。他人事では無いかもしれませんね。

 【欠陥住宅】先輩に学ぼう!【事件発生!】

・まとめ

擁壁は住まいの「基礎の基礎」。土地購入や建て替え時の参考にしてみてください。

ただし、一般の方が自分で安全性を判断するのは難しいことも事実です。

「気になる土地に擁壁がある」「購入候補地をチェックしてほしい」

そんな段階からでも、建築や土地の専門家は対応できますので、気軽に相談してみましょう。当センターにも日々相談をいただいておりますので、後悔する前に相談してください。

 

記事作成:ホームインスペクター鶴岡

 

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