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2025.12.15

基礎断熱のお話

家づくりを検討する上で、断熱性能大きなテーマとする方も多くなっています。住宅建築の高断熱化は社会的要求も強く、2025年4月の改正建築物省エネ法施行による原則すべての住宅の省エネ基準適合義務化が代表的な例と言えます。今回は高断熱化に伴い増えてきた基礎断熱工法を採用する際の注意点を紹介します。

 

・基礎断熱ってなに?

 断熱材を施工する位置が違います。ざっくり以下のイメージです

 

 

基礎外側断熱=床下室内扱い    基礎内側断熱=床下室内扱い    床断熱=床下屋外扱い

基礎断熱とは建物外壁面の基礎立ち上がり部を断熱することで、床下は室内環境と同様の扱いとなります。一方、床断熱は1階床の直下で断熱することで、床下はあくまでも屋外扱いとしています。

 

・なぜ基礎断熱が増えてきた?

 高気密高断熱住宅への社会的要求に応えるためといえます。基礎断熱の方が温熱計算上(断熱性能を測るための計算)有利となる場合が多く、また気密性能も確保しやすいことから、近年の高気密高断熱住宅では基礎断熱を採用する建設会社が多くなっています。

・基礎内側断熱は床下メンテナンスが困難?

基礎の内側に断熱材を施工すると、このような状況を見かけることがあります。

 

写真:床下点検口直下に断熱材(著者撮影)

写真:床下点検経路に換気ダクト多数(著者撮影)

・基礎外側断熱はシロアリ被害に注意

 基礎の外側に断熱材を施工する際、最も注意しなければならないのがシロアリ被害です。シロアリのうち、ヤマトシロアリやイエシロアリは地面から上がってきますが、断熱材が直接土と接することになるため、断熱材を食い破って建物へ進入してきます。さらに厄介なのが、断熱材の中を蟻道とするため、発見が遅れることが多いのです。

 

画像:シロアリ進入のイメージ

 

基礎外側を断熱する際には、断熱材そのものにシロアリに対する忌避性(シロアリが嫌がって近づかない)がある材や、その他専用の防蟻材等で処理をする必要があります。どのような対策ができるのか建設会社に確認しましょう。

画像:シロアリ対策部材施工例(日本ボレイトHPより)

 

・基礎断熱は有機農薬系防蟻材相性が悪い

 基礎断熱で注意したいことの一つが防蟻材との相性。木造住宅建築で現在最も多く使われているのが、ネオニコチノイド系などの有機農薬系の防腐防蟻材です

写真:有機農薬系の防腐防蟻材施工の様子(著者撮影)

多くの農薬系防蟻材のSDS(安全データシート)では、以下のような注意書きが記載されています。

 

 

また、床下にダクト式換気機器を設置するメーカーの施工要領には以下の記載があります。

要するに、薬剤メーカー、換気機器メーカーとしては使うなら換気が十分必要であり、かつ空気質を汚染する可能性のある揮発性のある薬剤を室内空間で使用はNGということです。基礎断熱工法の場合は床下空間=室内の扱いなので、有機農薬系の防腐防蟻材は基本的に採用は難しいということですね。

実際にリフォーム施工の防蟻材が揮発して室内空気質を汚染したと推測される場面で、人体に悪影響を与えた事例もあります。

 

平 久美子「防蟻工事におけるネオニコチノイド系殺虫剤使用と健康障害」より

 

 有機農薬系の防蟻材は5年に1度は床下に潜って再施工するのが一般的ですが、住みながらの工事になることがほとんどなので、上記事例のような場面に遭遇することは十分あり得ます。

 

・基礎断熱ではどんな防蟻材が良いのか。

 基礎断熱工法においては、防腐防蟻材は揮発による室内空気質を汚染する可能性がない無機系の「ホウ酸」が選択肢にあがります。

 ただし、「ホウ酸」は2010年にJIS規格が改定されてようやく日本の木造建築の防蟻処理剤として使えるようになったくらい歴史が浅いため、まだ広く一般的とはいえないのが現状です。有機農薬系防蟻材の業界団体との軋轢も非常に強く、ネガティブ情報も錯綜しているため、ユーザーが正しい情報を精査するよう心がける必要があります。

 ちなみに「ホウ酸」は水が大敵。施工直後に雨等が降ると基本的には流れ落ちてしまうため、採用を検討する際には施工管理がしっかりしている会社か見極める必要があります。

 ホウ酸以外の無機系木材保存材には「ガラス系」がありますが、こと防蟻材としてはホウ酸以上に一般的とはいえず、JIS規格に基づく防蟻材認定を取得している製品はほぼ無いのが実情です。

 基礎断熱工法の建物で採用する防蟻材が有機農薬系ならば、室内環境で使用する点に関して問題がないか、エビデンスを提示してもらいながら確認することが必要です。

 

・まとめ

 断熱性能を重視するため、基礎断熱を採用するというのは今後も増えてくるでしょう。断熱性能を高めるだけでは長持ちする家は作れません。

 断熱性能や気密性能はもちろん重要ですが、「どんな部材を使うのか」「換気計画はどうなっているか」「メンテナンスは考慮しているか」「防蟻材はどんなものを採用しているか」など注意しましょう。

 

 

記事作成:ホームインスペクター鶴岡

 

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